歯科衛生士は、歯科医院や診療所、病院に勤務して歯科医師の業務をサポートしたり、患者さんとのコミュニケーションやケアにあたったりする仕事です。
国家資格の保有者として一般歯科診療や専門性の高い治療・施術に携わることができるため、就職や転職先が豊富で需要の多い職業とも考えられます。
この記事では、歯科衛生士の仕事内容と平均給与について紹介します。「勝ち組」とも呼ばれる職業ですが、勝ち組に該当するのかも確認していきます。勝ち組になる方法も取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
歯科衛生士とは
歯科衛生士は、患者さんの口腔内の健康チェック・口腔ケア・歯科医師の診療補助を主な業務とする仕事です。
歯科衛生士法に定められる「三大業務」を中心にケアにあたりますが、その合間に患者さんから悩みを聞き出し、治療やケアに使う器具・機器の準備をします。
歯科衛生士になるためには、高校を卒業してから専門学校や大学・短期大学で学び、歯科衛生士国家試験を受験して合格しなければなりません。
試験に合格すると、国家資格の保有者として資格が付与されます。クリニックやその他の就職先で知識と経験を積み、ハイスキルの歯科衛生士を目指していきます。勤続年数や熟練度に応じて収入アップが期待できるのもこの職業の特徴の一つです。
また、歯科衛生士として勤務しながら「日本口腔インプラント学会」「日本小児歯科学会」といった特定の学会に所属して専門性を高めていくと、その学会が主催する資格が取得できます。
条件は資格ごとに異なりますが、一例として日本口腔インプラント学会に所属し、「インプラント専門歯科衛生士試験」に合格すると、インプラント治療や補助サポートに知識をもつ「インプラント専門歯科衛生士」に認定されます。
勤務先はクリニックや診療所、病院、福祉施設、一般企業(団体)と幅広く、フリーランスで活動することもできます。国家資格を保有しているため退職してからも再就職を目指しやすく、ブランクがあっても受け入れ口が見つかりやすい点がメリットです。
看護師のように夜勤が発生する環境は少なく、代わりに訪問歯科診療(往診)や学校などへの歯科保健指導に同行するなど、歯科診療をより身近にするための取り組みにも参加します。
地域医療を担う存在であり、一人ひとりの口腔ケアやお口〜全身の健康を守る存在として、なくてはならない職業といえます。
歯科衛生士の仕事内容
歯科衛生士の「三大業務」は、歯科衛生士法にも定められています。具体的な内容は次のとおりです。
- 歯科予防処置
- 歯科診療補助
- 歯科保健指導
三大業務は歯科衛生士法にも定められている専門業務です。予防処置・診療補助・保健指導について詳しくみていきましょう。
関連記事「歯科衛生士の仕事内容・平均給与は?月収や年収の推移と目安を解説」
歯科予防処置
歯科予防処置とは、口腔内のトラブルで多くみられる虫歯と歯周病を中心に予防するための処置を指します。
具体的な処置としては、定期検診にともなう歯垢・歯石の除去、「フッ化物塗布」等の塗布や機械的歯面清掃と呼ばれる機械を使った汚れの除去が代表例です。
歯科医院で患者さんに対して処置やケアを行うのは、国家資格をもつ歯科医師または歯科衛生士の仕事です。歯科衛生士は医療行為を専門に行う歯科医師に代わって、予防処置を中心に実施します。
予防が不足している患者さんには定期検診の頻度をアドバイスし、予防の重要性を伝えます。また、次回の診療・施術内容を歯科医師や事務と共有し、継続的な予防を心がけながら、さらなる予防に勤めます。
患者さんのなかには「治療が必要になったら来院すればいい」「歯医者が怖いのであまり来院したくない」と、予防歯科を重要視していない方もいらっしゃいます。歯科衛生士はそのような患者さんの心や生活に寄り添い、口腔ケアの状況をヒアリングして、適切な処置を実施しているのです。
歯科診療補助
歯科診療補助は、歯科医師が行う診療や医療行為をサポートする業務です。
たとえば虫歯の治療では、歯科医師が患部を削ったり磨いたりして、病巣を取り除きます。その際、口腔内の洗口や詰め物の用意といった細かい対応が必要になるため、歯科衛生士が医師の手技をサポートします。
歯科医院や病院では複数の患者さんを一度に診るため、スムーズに段取りを行わなくてはなりません。歯科医師一人の診療ではなく、歯科技工士や歯科助手も加わる「チーム医療」のため、歯科衛生士はその場の状況や治療の順番を把握し、器具や薬品を準備します。
歯科診療補助には、患者さんとのコミュニケーションも含まれます。事前に治療計画や段取りを行っていても、施術のプロセスが変わる場合があり、治療の方向性が分からないと患者さんは不安になってしまいます。そこで、歯科衛生士が治療のプロセスや意味を説明して不安を取り除き、スムーズに診療を進めていくのです。
矯正歯科や審美歯科、またはその他の外科的治療など専門性の高い診療を行っている場合は、専門的な知識と対応力が欠かせません。そのような一般歯科診療以外の分野についても、医師の指示を受けて補助業務を行います。
歯科保健指導
歯科保健指導とは、口腔内の健康を保ち、虫歯や歯周病の予防、治療後の予後を良好に維持するためのアドバイス・指導です。
歯科保健指導を行わなければ、歯と歯ぐきの健康を自発的に守ろうという意識が育ちにくくなります。一般的な虫歯や歯周病の治療は保険適用の対象であり、1〜3割の負担です。治療費の残りは国が支出するため、口腔疾患の数が増えるほど国にかかる医療費の負担が大きくなります。
負担を軽減し医療費を抑制するという意味でも、歯科保健指導は重要な役割を担っています。食後の歯みがき、正しい歯ブラシのかけ方、注意したい口腔ケアのポイントを総合的にアドバイスし、患者さんの意識向上を促すのです。
指導の対象となるのは病院やクリニックの患者だけではなく、歯科保健指導で訪問する学校や施設の利用者も含まれます。誤嚥に悩む高齢の方、歯ブラシの使い方がわからないお子さんなど、それぞれの方の状況や理解度にあわせて指導します。
口腔ケア以外には、早食いの予防や間食の間隔・回数指導、歯ブラシや洗口液の選び方もアドバイスします。
歯科衛生士の平均給与
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によれば、歯科衛生士の給与は男性が27万9,700円、女性は28万1,000円でした。
男女をあわせると28万1,000円で、賞与や残業代は別途支給されます。厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」では、公開情報として2024年度の歯科衛生士(平均年齢37.8歳)の平均年収は404.3万円でした。(※1)
国税庁による「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均給与は458万円という結果でした。さらに給与所得者数は男性で2,927万人、女性は2,151万人と男性のほうが多く、平均給与は男性が563万円、女性は314万円でした。(※2)
また、同調査では正社員・正職員のみの平均給与は523万円であり、正社員・正職員以外の平均給与は201万円という結果となっています。非正規雇用者の給与が200万円程度であるのに対し、正社員や正職員は500万円を超える平均給与となっています。
歯科衛生士の平均年収を厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」が公表した404.3万円とすると、日本人全体の平均年収(458万円)や正社員・正職員の平均給与(523万円)よりも50万円以上下回っていることがわかります。
※1参照元:厚生労働省職業情報提供サイトjobtag「歯科衛生士」
※2参照元:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
歯科衛生士は勝ち組であるか?
歯科衛生士は国家資格の取得者として、専門性の高い業務に携わっています。知識だけではなく技術やコミュニケーション力も磨くことができるため、高い水準の歯科医療を実現するために欠かせない存在です。
歯科クリニックや診療所の求人が豊富にあり、ある程度の経験を積むと就職や転職の間口が広がって年収アップも期待できるため、「勝ち組」とも言われています。
資格を取得したばかりの状態では勝ち組とは言えないかもしれませんが、経験を積んでいくと専門性が身につくため、クリニックや診療所以外の勤務先も選択肢に加えられるようになります。
経験値が上がってくると、大学病院や総合病院のような環境を目指したり、美容外科に併設された歯科やメーカーなどの民間企業、あるいはフリーランスとしての道を選んだりと、自分に合った働き方が検討しやすくなるでしょう。
ハイレベルな環境に勤務すると、収入アップも期待できます。歯科衛生士の養成学校で講師として勤務するなど、指導する側に回るケースもあります。
収入以外の面では、フレキシブルに働いたり出産・育児や介護にやさしい職場を選んだりすることもできます。歯科衛生士の離職や退職が増えてくると人手不足に陥るため、地域医療を存続させるために職場環境を整えるクリニックや病院が増えてきています。
そのような環境に勤められれば、柔軟で無理のない「勝ち組」としての働き方が可能になるでしょう。
一方で、法令を遵守していない・ハラスメントが横行している・上下関係や人間関係が厳しいような職場は、どれほど給与が高くても長く勤められない問題があります。
勝ち組と呼ばれるには、長く働きたいと思える「安定性」と、職場環境そのものの「将来性」が大切な要素になるのです。
歯科衛生士が勝ち組になる方法
歯科衛生士が勝ち組になるためには、次のような方法が挙げられます。
- 歯科衛生士としての基本的なスキルを磨く
- コミュニケーションスキルを向上させる
- 高い専門性を身につける
- 給与の高い歯科医院で働く
- 資格を取得する
- 東京で働く
どのような要素で「勝ち組」と呼ぶかは解釈の仕方によりますが、年収が高いことや就職・転職がしやすいといったポイントを踏まえると、上記の方法を検討したいところです。
ここからは、勝ち組になるために意識したいポイントを紹介します。
歯科衛生士としての基本的なスキルを磨く
歯科衛生士の資格を得たあとは、一般歯科診療を中心に基礎的な業務を覚え、技術を磨いていきます。基本スキルが高いほど信頼され、歯科医師や歯科技工士を含むチーム医療の円滑化にも貢献します。
基本ができていれば応用のステップにも進みやすくなるため、患者さんとのコミュニケーションやチーム医療のとり方、器具や機械の準備・片付け、歯科予防処置の手技といったスキルを磨きたいところです。
勤務場所によっては大型の機械や他院にはない珍しい器具を導入している場合もあります。珍しいものや機会に触れるほど自身のスキルアップにつながるため、職場環境を積極的に活用しましょう。
都道府県の歯科衛生士会や学会に所属し、研修会や講習会に出ることも基本を押さえるために役立ちます。公開講座イベントの実施や専門性の高い研修会も開かれています。
コミュニケーションスキルを向上させる
歯科衛生士のスキルについて、手技や器用さといった点が強調されることがありますが、患者さんに直接向き合う仕事のため、技術力だけが求められるわけではありません。
実際の診療では、痛みや違和感を訴える方に寄り添って治療につなげる協調性・対応力、必要な説明やアドバイスができるコミュニケーション力が求められます。
小さなお子さんや高齢の患者さんは、うまく悩みを伝えられないことがあります。他の年代の方でも、歯医者に通い慣れていない人や歯医者が好きではない人は、不安感をうまく伝えられないこともあります。
お口の悩みを抱える方からヒアリングし、適切な対処や治療につなげていくことが、歯科衛生士に求められるコミュニケーションスキルです。
チーム医療の観点からも、コミュニケーションスキルを磨いておくことが大切です。歯科医師からの指示を受け取って対応する、歯科技工士や歯科助手と連携する際に、コミュニケーションが上手な人ほどスムーズなチーム医療が実現します。
高い専門性を身につける
一般歯科診療は基礎的な部分ですが、他の歯科衛生士と差別化し勝ち組になるためには、高い専門性を獲得することが大切です。
専門性といっても、業務につながらない内容を無理に覚える必要はありません。矯正歯科に勤務している方は、矯正治療を中心に新しい情報や技術の情報をチェックし、矯正治療に特化した歯科衛生士の技術を磨いていきます。
将来の転職やビジョンにあわせて専門性を獲得していく方法もあります。たとえば、勤務している歯科クリニックでは行っていないが、転職先で訪問歯科診療に携わりたい場合は、訪問歯科に特化した知識や技術を身につけていくことで、自身の市場価値を高められるでしょう。
専門性を高めるためには、専門医による指導や学習の機会を活用しましょう。矯正歯科に勤務している方であれば矯正歯科学会に所属し、研修会や研修プログラムへの参加、セミナーやイベントを活用して知識と技術をブラッシュアップします。
多忙でも学習の機会を得られるように、学術会議やオンラインセミナーへの参加もおすすめです。学びの機会を逃さず、専門性を向上させることで、専門的な手技やサービスが提供できます。
給与の高い歯科医院で働く
厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」では、歯科衛生士全体の平均給与は404.3万円でした。しかし、東京都に限定すると473.8万円、大阪府では434.9万円となり、いずれも全体の平均給与より給与は高くなっています。
大都市は地方都市よりも病院・クリニックの数が多いため、競争率が高くなります。歯科衛生士にとっては就職や転職の選択肢が多く、給与の高い勤務先が選びやすいエリアです。
少しでも給与が高く待遇が良い環境を選ぶことができれば、より「勝ち組」に近づけられるかもしれません。
資格を取得する
歯科衛生士は国家資格ですが、そこへプラスして専門的な資格を取得すれば、さらに市場価値を向上させられます。
一例として、矯正歯科に勤務する歯科衛生士は日本成人矯正歯科学会が認定する「認定矯正歯科衛生士(2級/1級)」や、日本歯科審美学会が認定する「日本歯科審美学会歯科衛生認定士」がおすすめです。
認定矯正歯科衛生の資格を取得すれば、矯正治療を必要とする患者さんに対して専門的な知識にもとづいたアドバイスや診療補助ができるようになります。日本歯科審美学会歯科衛生認定士の資格を取得すると、審美歯科としての知識が備わります。
東京で働く
厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」では、東京都の歯科衛生士の平均給与は473.8万円でした。
全体の平均給与よりも70万円ほど高い結果からみても、地方から東京に勤務先を変えるだけで給与アップが期待できる可能性があります。
注意点として、未経験者や技術力が平均的な方はスキルアップや他者との差別化に取り組みましょう。東京は業界や業種を問わず競争率が高いエリアですが、熟練者や有資格者が優先される求人も多いため、収入アップにふさわしい職務経験を準備したいところです。
勝ち組を目指すならスキルアップを心掛けよう
今回は、歯科衛生士の仕事内容と平均給与、「勝ち組」とも言われる理由や勝ち組になるためのポイントを紹介しました。
国家資格を取得することで就業しやすくなるため、その点だけを見れば「勝ち組」に該当しますが、年収や待遇といった点で勝ち組を目指すならば、スキルアップと専門性の獲得、将来的なキャリア形成も意識しましょう。
ライフプランとして結婚や出産・育児、介護を視野に入れるときは、離職と復職の計画もよく考える必要があります。給与が高いエリアを選んで仕事をする、学会や研修会を活用してスキルの幅を広げるといったアクションも、勝ち組になるために意識してみてはいかがでしょうか。
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監修者
長谷 麻央
株式会社ハーモニック キャリアアドバイザー
《略歴》
タレントマネージャーとして5年の経験を積んだ後、
看護師専門人材紹介コーディネーターとして13 年間務める。
2021年から現在にかけて、ハーモニックでキャリアアドバイザーとして多くの求職者に貢献中。